I don't think so !

じゃあ、お前はどう考えるのだ!

海王丸と富山湾の曇り空

「働き方改革」、問題提起までは良かったが、その後の議論を台無しにしてしまった安倍政権

働き方改革」の議論は国民に問題提起をし、考える絶好の機会だ

働き方改革関連法案が5月31日、衆院を通過し、参院に送られた。年収1,075万円以上の「高度な専門職」を労働時間規制の対象から除外する「高度プロフェッショナル制度」がこの間の議論の中心だった。

確かに政府のやり方はあまりにも姑息である。年収1,075万円以上の労働者の割合は全体の3%程度だそうだ。「ほとんどの人には影響がない」というのであれば政治的な課題として急ぐ必要はなさそうだが、それでもあれだけ強引に押し通そうとしているのは、やはり裏があるのだろう。

それに仕事内容がますます高度化、複雑化し、真の意味での「高度プロフェッショナル」が求められているときに、従来の残業代不要のワーカーである「名ばかり管理職」や「専門職制度」との違いを明らかにしないまま安倍政権特有の言葉遊びに終始しているだけだ。「武器」を「防衛装備品」と言い換えているのと同じことをやっている。

しかも不幸なことに公文書の隠ぺい、改ざん、偽装で野党が審議に参加できない状況まで安倍政権はつくり出してしまった。これ幸いと審議に参加しなかった野党を批判する与党議員もいるが、自ら疑惑解明に具体的に動かなかった自民・公明の与党議員にそれを語る資格はまったくない。同時並行的に審議する環境を整備すれば良かったのだ。

最重要法案であると位置づけておきながら、「働き方改革」の議論を台無しにしたのは、ほかならぬ安倍政権であり、自浄作用を発揮できなかった政権与党であり、その責任は大きい。

野党は過労死防止策に焦点を絞っても良いのではないか

働き方改革」の議論は、年功序列や終身雇用の問題を国民が共有し、考える絶好の機会だ。何を着地点とし、どのような道筋やステップで変えていくのかの議論が必要だ。

共産党が大企業優先だ、高プロ制度など経済界の要請はもってのほかだというのは理解できる。それが共産党の昭和時代からの一貫した姿勢だからだ。しかし、立憲民主党や国民民主党は別の視点があっても良いのではないか。高プロ制度など何らかの制度改革は必要だと認めつつ、過労死の防止策を高プロ制度から切り離す戦略だ。高プロ制度は過労死を増やすかもしれないが、高プロ制度がなくても過労死が起きているのだ。この現実にどう対処するのかの対策だ。

高プロ制度絶対反対の対決姿勢を唱えても、数の力で与党に押し切られるだけだ。対決姿勢は不毛な結果に陥りやすく、結局は過労死は減らず、企業や国民の意識も変わらなければ、原発・エネルギー政策のように日本は何も自ら変わらないままで終わってしまうことにならないか。   

年功序列と終身雇用の見直しが問われている

いま、1980年代後半のバブル期さながらの若手人材の争奪戦が繰り広げられている。当時と比べると成人人口が4割減少しているのだから、当然のことだ。安易に非正規社員を増やして人件費を切り詰めてきた企業も、それでは対応できなくなりつつある。

終身雇用や年功序列という制度やそのもとで根づいてしまった精神文化と時代のあり方が、あの手この手で何とか誤魔化してきたが、いよいよ誤魔化しきれなくなってきたのではないだろうか。戦後の復興から高度経済成長までの制度的な牽引役は確かに年功序列と終身雇用だった。その意義やはたしてきた役割は強調し過ぎることがないぐらい大きい。今でも大きい。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の栄光も終身雇用と年功序列の賜物だ。

しかし、その一方で働き方の多様化、流動化は終身雇用の否定にほかならず、その一つの必然的結果としての非正規社員の増加は、若年労働人口の減少との間に矛盾を生じさせつつあるようだ。「正社員を減らして非正規を増やす」路線の修正を余儀なくされているのだ。日本は今や世界第4位の移民大国であるにもかかわらず、排外主義的、差別主義的な保守政権のもとでは、人権無視的な雇用が横行するだけで、せっかく日本に来てくれている多くの外国人を、若年労働人口の減少を補うためにうまく活用できていないのも事実である。

ほぼ横並びだった新卒の給与に少しずつではあるが変化が見られるようになったのも、そのような時代の抱える矛盾の表れかもしれない。今後、その傾向はますます顕著になり、新卒の間ですら初任給に大きな差がつく時代になっていくのだろう。優れた能力を身につけた新卒の給与が入社10年目の社員の給与を上回る時代になりつつあるのだ。

同一労働同一賃金」のインパク

同一労働同一賃金」が持つインパクトは極めて大きい。そのことの議論があまり見られないのは残念だ。安倍総理の「同一労働同一賃金」の言葉が上滑りしているのは、理解力の問題だけでなく、あまり深入りしないよう官僚から注意されているからかもしれない。

同一労働同一賃金」は言うまでもなく年功序列の賃金体系の否定である。経験年数に関係なく仕事内容で賃金が決まるからだ。

同一労働同一賃金」は正社員と非正規社員をシャッフルする。仕事内容で割り振られるだけだからだ。正社員が正社員だからという理由で高収入を得る時代は終わりを告げる。非正規社員は遅れて入社してきた分だけ最初は低賃金だが、入社と同時にシャッフルされるから、後は頑張り次第だ。非正規を増やしてきた企業が、当然のことながら、その結果として非正規より頑張らない、仕事ができない社員が多かったことに愕然としているのだ。

同一労働同一賃金」は労働組合から賃金闘争の役割をはぎとる。「定昇○○%を勝ち取るぞ!」という時代ではないのだ。仕事内容によって賃金が決まり、その賃金は市場価格もしくは需要と供給の関係で決まるからだ。労働組合は従業員の駆け込み寺的役割を積極的に担わなければ使命を終える。

同一労働同一賃金」は採用慣行を否定する。いっせいに新卒を採用する風景はなくなり、欠員が生じだら募集をかける通年採用になる。仕事にヒトが引き当てられるからだ。その分、新参者である新卒や若年労働者の失業率が景気動向によって大きく変動しやすくなる。欧州での若者の失業率が大きいのはそのためかもしれない。今後の慢性的な若年労働者の不足を考えると、より雇用の流動性が高まるのは間違いないだろう。若者が甘言で釣られ、こんなはずじゃなかったと後悔し、さっさとやめていく時代なのだ。

同一労働同一賃金」のもとでは、学生時代にアルバイトや遊びに忙しく勉強しなかったら、「少なくとも中国人ではない(日本語ができる)」という理由で採用されるかもしれないが、低賃金に甘んじなければならない。

同一労働同一賃金」のもとでは、会社や上司が教えてくれないから仕事ができない、と言っている間は給料は変わらない。自ら勉強して新しい知識や技術を身につけ、「資格」を取得しなければ給料は上がらない。

同一労働同一賃金」のもとでは、管理職は減少し、管理職になれなかった中高年層の給与は40歳前後で頭打ちとなり、あとは減少の一途となる。年功序列ではなくなるからだ。

どうやら私はとても良い時代にサラリーマン生活に分かれを告げられそうだ。上記の例は良し悪しや好き嫌いを言っているのではない。あくまでもそのよのような方向に時代は流れているということで、今日、明日にでも実現するという話でもない。だからハードランディングさせない政治の役割が重要になるのだ。

働き方が多様化するがゆえに、最低限守るべきルールの確立が急務

そのような時代の変化に対応して、当然のことながら働く側にも意識改革が求められるし、企業も対応を誤ると人材が集まらない、あるいは人材が流出するという事態に陥りかねない。若手社員は普通に転職サイトに登録し、簡単に会社を辞め、辞めるときにネットにちくったりする。いったんブラック企業、ブラック職場というレッテルがネットで貼られると社員はおろかアルバイトも来なくなる。

そのような時代の延長線上に労働基準法などの関連法案の見直しを位置付ける必要がある。働き方の多様化に応じてこまごまと法律を整備するのだろうか。それも必要かもしれないが、それは官僚に任せておけば良い。

政治としては最低限これだけは守らなければならない、という枠組みをしっかりと議論すべきではないか。後は企業がそれぞれの判断で人事制度や採用方法考えれば良い。

その枠組みとは過労死やうつ病などの精神疾患を防ぐための方策である。言い方を変えるとブラック企業や勘違いしたブラックな経営者や管理者に対する方策である。経営が危うくなり経営者、従業員がともに頑張っている場合の最後の歯止めである。

時代の流れからするとブラック企業やブラック経営者は淘汰されていくのだろうが、問題はブラック管理者である。自分は会社のためにやっていると信じ込んでいる管理者や性格的に尊大な管理者、勘違い管理者などは企業規模を問わず、どこにでもいる。だから有無を言わせない明確なルールづくりが重要なのだ。

大きくは、

①従業員の就業記録を正しくつけさせ、年に1回は決められたフォーマットで労基に就業データを提出させる。もしくは厚労省公認のアプリで入力させ、データを自動的に吸い上げる。年に1回とは改善の猶予期間を与えるためだ。

②就業時間及び休日取得や健康診断、医師との面談のルールなど健康維持のための施策を定める。

①で企業の就業データを「労基AI」にかけ、不正、改ざん、危険な働き方があれば、ピンポイントで労基は査察に入るか、企業を呼び出して指導する。労基は査察に入れば微に入り細に入り調査すれば良い。たとえ調査で経営活動がストップしても気にする必要はない(もっとも今もそうであるが)。企業はそれだけで法令を守ろうと努力する。労基は税務署と同じような強力な調査権限を企業に対して持っているのだ。

②は残業80時間が過労死ラインとか、概ね現行の基準をベースに議論して定めれば良い。

重要なのは①である。就業状態の透明性を徹底的に高める施策である。クラウド上に就業データを保持し、企業の人事担当者と労基がアクセスできるようにしておくだけ、過重労働による過労死という不幸な事件は大幅に減少するのではないだろうか。