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インターネット投票―やるべきだが、やるべきでない取り組み

超党派によるインターネット投票の実現に向けた取り組み

4月18日(水)、インターネット投票研究会主催によるフォーラムが、衆議院第2議員会館で開催された。登壇者は各党の国会議員である。

浦野靖人衆議院議員日本維新の会

柿沢未途衆議院議員希望の党

重徳和彦衆議院議員(無所属)

鈴木隼人衆議院議員自由民主党

中谷一馬衆議院議員立憲民主党

牧山弘恵参議院議員民進党)

三浦信祐参議院議員公明党

山下雄平参議院議員自由民主党

有識者は、

湯淺墾道情報セキュリティ大学院大学学長補佐・教授、インターネット投票研究会主査

河村和徳東北大学准教授、インターネット投票研究会副主査

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「インターネット投票の実現に向けて」フォーラム、2018年4月18日、衆議院第2議員会館、写真中央は牧山弘恵参議院議員

配布された資料には自民党国会議員でつくる「若者の政治参加検討チーム」が昨年の12月6日、野田聖子総務相に自宅のパソコンなどから投票できるインターネット投票の解禁を提言した新聞記事が紹介されていた。

インターネット投票は投票難民を救い、有権者の政治参画意識を高める有効な手立て

投票難民とは在外邦人、障害者、高齢者、離島や山間部など過疎地域の有権者のことだ。たとえば2017年の衆議院選挙では、在外邦人の有権者数100万人に対して投票者数は2万人程度に過ぎない。あるいは全国の投票所の35%が開票作業の関係から投票時間を短縮している。

インターネット投票はこうした投票難民を救い、投票条件の不平等を是正し、選挙事務の効率化や負担軽減にもつながる。そのため各党の登壇者は全員が必要性を訴えた。しかし前のめりなほど積極的に必要性を強調する議員や問題点を指摘する議員、第一歩をどこから踏み出すかという具体策を提案する議員など賛否両論に対する温度差やアプローチの仕方に幾分かの相違も見られた。

問題点はセキュリティなどシステムに関することと投票の自由をどのように担保するのか、といったことである。投票の自由の問題とは、地方選挙で行われているような宗教団体が信者を大量動員して自宅から投票所まで高齢者を車でピストン輸送をする行為が、形を変えてより行いやすくなるのではないかという危惧である。家まで来られては投票の自由も秘密も守られない、ということだ。

インターネット投票とは

一口にインターネット投票と言っても、幾つかの局面がある。投票形態としては以下の3つがある。

①自宅から電子投票する

②投票所から電子投票する

③自宅と投票所を併用する

投票に使用するデバイスとしてはパソコン、スマホ、専用デバイスなどが考えられる。また、自宅と投票所とでは使用するネットワークも大きく変わる可能性がある。自宅からだと通常のインターネット回線、投票所からだとセキュリティを高めたVPN回線や専用線などクローズドネットワークの使用が可能になる。

選挙におけるインターネットの活用方法としては、

①候補者の政策を知らせる(選挙公報

②投票する

③集計する

の3つの局面があり、フォーラムでも、まず、①の知らせることから着手してはどうかとの意見もあった。それとて公職選挙法など関連する法律改正や選挙公報のフォーマット、文字数などについての各党の合意形成が必要であり、極めてハードルが高い。文字数の合意形成とは、たとえば視覚障害者のためにパソコンの読み上げソフトを使ったとき、候補者によって読み上げ時間が1分や3分とまちまちにならないようにするためだ。

実際のところインターネット上で候補者の平等性を確保することは、実現が絶望的に不可能に近い問題なのだ。選挙公報のフォーマットをたとえ統一できたとしても候補者の専用サイトにリンクしてしまうと資金力の差があらわになる。

投票間ぎわに対立候補のサイトに攻撃をかけて閲覧できなくしたり、不祥事のフェイクニュースを大量に流すことも資金力さえあれば容易なことだ。選挙に関連したフェイクニュースは米国大統領選挙でもあったようだし、残念ながら日本の選挙では既に広く普及してしまっている。インターネット投票は投票行為とフェイクニュースの距離を極めて短くする。

現在、投票日には投票所での候補者のポスター掲示しか許されていないのは投票者の平等性を保障するためでもあるが、これと同じようなことをインターネットで実現できるのだろうか。無理である。

次に、インターネット投票を適用する局面としては、

①国政選挙や県知事選挙、大都市の市長選挙など大規模選挙に活用する

②市町村議会議員選挙など地方選挙に活用する

ことが考えられる。地方選挙では既に電子投票の導入が試みられたものの、相次いでトラブルが発生して失敗したこともフォーラムで紹介された。下記の記事はシステムトラブルだけでなく、コスト高で電子投票の普及が進んでいないことを報じている。

www.kanaloco.jp

インターネット投票は選挙コストを大幅に押し上げる

フォーラムではインターネット投票に関する2000人の意識調査が紹介された。その中で選挙にかかわるコストが安くなるとの回答者が、高くなるとの回答者を上回ったことが紹介されたものの、これについてはパネラーからも上記の海老名市の事例が紹介され疑問が示された。しかし時間の制約もあって詳しくは語られなかった。

一般有権者からすれば、投票箱の設置、回収、開票作業がなくなるとコストは安くなると単純に考えがちだが、システム屋からすれば、そうならないことは明らかだ。私の経験でもシステムの仕事は「ハードウエアは壊れ、ソフトウエアはバグを出し、人間は運用にミスる」こととの戦いの連続だった。壊れないハードウエアやバグを検出するソフトウエアが実現できないことは技術的にも論理的にも証明されているし、人間は実に多くのミスを犯す。もちろん、そのことをユーザに説明しても、誰も納得してくれないから、トラブルが発生すると怒られたり、文句を言われたりすることに黙って耐えるしかない。システムとはそのようなものなのだ。

インターネット投票はこれに加え、外部からの悪意を持った攻撃に対する防御やデータの改ざんがないことの証明が必要だ。アナログ的な投票箱はこのことを物理的に保障しているのである。それを電子的に実現するには実のところ想像する以上に莫大なコストがかかるのだ。

加えて何か月か何年かに一度の一発勝負でしか使わないシステムでいかなるトラブルも絶対に許されないという開発条件が示されたら、私であれば真っ先にシステム受注や開発の仕事から逃げ出すだろう。地方選挙で電子投票のシステムを受注したIT会社があること自体、信じられないくらいだ。

セキュリティは常に投入コストに応じたレベルでしかない

ファイアウォールのリアルタイムのアクセスログを眺めた経験からすると、自宅からのインターネット投票は渋谷のスクランブル交差点の真ん中に台を置いて投票するようなものである。

インターネット投票にマイナンバーを使って投票者を特定することも提案されているようだが、ITの大手企業が大量の個人情報を流出させて社会問題化しているのに、どのようにしてIT大手以上の強固なセキュリティを実現するのだろうか。100%完璧なセキュリティが実現できないからトラブルは絶えないことを知るべきなのだ。常に投入コストに応じたレベルのセキュリティでしかなく、コストパフォーマンスの問題なのである。

セキュリティに関してパネリストから暗号化技術が進んでいるから問題ないとの発言もあったが、ネットワークによる入力データの送受信に限定して話しているのだろうが、送受信はシステム全体の一部でしかない。

このフォーラムに参加する前は、10年以上前に米国のIT情報誌でインターネット投票が進まない理由を書いた記事を読んだぐらいで、深く考えたことはなかった。その記事はシステム開発者つくる裏口や管理者のために設ける秘密のルートからの侵入を防ぐことは困難だと書いてあった。システムは開発者に対しては極めて脆いものなのだ。

しかしながらシステム屋としては漠然とではあるが、インターネット投票の方向に世の中の流れは進んでいくのだろうと単純に考えていた。そこで解決すべき現在の課題は何なのかという興味でフォーラムに臨んだのだ。

しかし2時間、フォーラムに参加して登壇者の話を聞きながら考える時間が与えられたとき、インターネット投票は実現すべき課題だが実現すべきではない、もしくは実現可能だが実現しない方が得策といった類いの課題だと主催者の意図に反した結論に達してしまった。ついでに私はかなりのへそ曲がりだったことも思い出した。

もちろん政治家は有権者保護、投票の平等性の確保、国民の政治への参画意識や投票率向上のため、インターネット投票は実現すべきだと訴え続けていかなければならない。IT企業はインターネット投票がひょこっと実現したときに、しっかりとシステムの受注ができるよう活動を支援していかなければならない。

結局のところインターネット投票は技術的課題ではなく政治的課題なのだ。だから実現する可能性はある。